倉之助くんの在庫管理奮闘記 ~その3~

【執筆者情報】
芝田 稔子(しばた としこ)
物流専門のコンサルティング会社 湯浅コンサルティングのコンサルタント。
物流のムダ、在庫のムダをなくし、企業の収益率を向上させ、地球環境をよくすることを目指し、多くの物流事業者、荷主企業の支援を行う

倉之助くんの在庫管理奮闘記 ~その2~を読む

在庫はどこまで絞り込める?

この連載は、初めて在庫管理を担当することになった若手社員「倉之助くん」を主人公に、困ったり、迷ったりしながら、在庫管理を学んでいく姿を紹介するものです。

読者の方々には、倉之助くんに共感したり、同情したり(?)しながら、在庫管理について学べるものにしたいと考えています。倉之助くんの奮闘を楽しみながら、応援して頂ければ幸いです。
※「倉之助くん」は、2023年1月16日に出版された「手にとるようにわかる在庫管理入門」に登場するキャラクターです。

前回、倉之助くんは、家庭にある冷蔵庫と会社の倉庫の役割は基本的に同じであるということを学びました。「どちらも中身は在庫」ということです。

自分の家の冷蔵庫を上手に管理できたら、そのやり方は、会社の在庫管理にもうまく活用できそうです。
さて、今号では彼はどんなことを学ぶのでしょうか。

天才現る??

倉之助くんは、オフィスでランチを終えたところ。自作のお弁当がなかなかおいしかったので大満足しています。

それに今朝、お弁当を作った時に、冷蔵庫に作り置きしていた材料をきちんと使い終えたので、かなり自画自賛中です。

今晩は工場倉庫にいる先輩と情報交換(という名の飲み会)に行くので食材は不要、野菜などはちょうど使い切った状態で、明日は買い出しに行く日なのです。

買い出しに行く前日にちょうど在庫を使い切るなんて、ボクはもう在庫管理の天才かもな

今朝、お弁当を作って空になった野菜室を思い出して、つい笑みがこぼれてしまっていた倉之助くん、通りかかった上司に声をかけられました。

心の声が漏れてるぞ

あっ、お疲れ様です!(やば。どこから聞こえてたんだろう)

在庫管理の天才くん

(しまった・・・)

ちょうどよかった。さっき社長から、あらゆるところでムダがないか再検討せよと指示されてね。ウチの会社の在庫を究極に絞り込むとしたらどうなるのか、先入観なしに検討してみてもらえないか?

・・・究極ですか・・・(難題では?!)

いやぁ、天才くんにふさわしい課題が見つかってよかったよかった

倉之介くんは弁当箱を片付けながら、「究極に絞り込んだ在庫量」とは、どこから検討すべきなのか、考えました。

在庫を置くべき場所はどこか

倉之助くんは、在庫をどうしても置かねばならない場所はどこか、から検討することにしました。

オフィスの裏紙置き場から、紙を何枚か取ってきて、机に向かいました。何か新しいことを考える時は、倉之助くんはパソコンよりも紙とフリクションペンを使います。そのほうが自由な発想ができる気がするのです。フリクションペンなら、書いたモノの修正も簡単です。

倉之助くんは、白い紙の右側に「お客様」と書きました。「在庫」の最終ゴールは「お客様」だからです。最終ゴールに向かって、在庫はどんな道をたどっているのか、書き込んでみました。

書き込んだ結果がこちらです。

倉之助くんの会社には工場、工場倉庫、デポと呼ばれる顧客出荷用の地方倉庫があります。

顧客への納品は基本的にデポから行われますが、大量出荷の際は工場倉庫からの直送も行われています。

お客様からの注文に従ってデポから出荷が行われます。デポでは欠品がないように在庫を持っておく必要があります。デポは、在庫管理を行うべき場所ということになります。

デポは顧客への出荷を担っていますが、在庫が減ってくれば、工場倉庫に対し在庫の補充を依頼します。もし、工場倉庫が欠品していたら、在庫補充が行えません。工場倉庫も在庫管理を行うべき場所ということになります。

工場倉庫の在庫が減ってくれば、工場の生産部門に対し、生産依頼を行います。工場では、生産依頼に応じて生産計画を立て、生産します。完成した製品をすべて工場倉庫に送り込んでいる場合、工場においては製品の在庫管理の必要はないことになりますが、製造するために必要な材料や原料は持っておく必要があり、これらの在庫管理が必要になります。

「見込みで在庫を用意する必要がある」場所では、どこでも在庫管理を行う必要がある

生産計画を立ててから材料や原料を調達することで生産に間に合うならば、これらの在庫は必要ありません。「見込み」で用意しておかないと間に合わないならば、在庫を持っておく必要があり、在庫管理が必要です。

在庫管理の起点は「お客様」

在庫を置くべき場所が整理されたので、置くべき在庫量を検討していきましょう。

倉之助くんは「在庫を置くべき場所は?」のメモを見ながら、在庫を究極まで絞り込むとはどういうことか、考えています。

メモの左側の「工場」は、在庫を生み出す場所です。ここで在庫を究極に絞り込むとは? すべての商品を最小生産ロットで生産すること? いや、よく売れている商品については、もっとたくさん生産していいはずです。う~ん??

倉之助くんはメモの右側に目を向けてみました。「お客様」が一番右に、そこへ向かう矢印は「デポ」から伸びています。

在庫はお客様に納品するために持つものでした。「お客様が今、必要としているモノを、必要な量だけ」は持っていなければなりません。倉之助くんの会社では、お客様への納品はデポが担当していますから、デポがその在庫を持っていればよいといえます。

今日、必要な在庫量は?

倉之助くんは、デポにいる友人に質問してみました。あだ名はデポ吉くんです。

必要最小限の在庫量に絞り込めと言われたら、どんな在庫を持てばいいと思う?

え~? それがわかったら苦労しないよ!

怒られてしまいました。

倉之助くん、質問を変えてみます。

欠品しないためにはどんな情報があればいい?

もちろん、お客様からの注文内容だよ。明日の出荷に必要な在庫が、作業に間に合うようにデポに揃っていれば、ちゃんと出荷できるんだ。でも、今日、どんな注文が来るかわからないから、大量の在庫を持たなきゃいけないんだ。今日、どんな注文がくるかわかればなぁ。。。

倉之助くん、ちょっとピンとくるものがありました。デポでの最小限の在庫量は「明日の出荷に必要な量」すなわち「1日分」と言えそうです。

さてデポに在庫を送り込むのは、工場倉庫の役割です。倉之助くんは工場倉庫でどこまで在庫を絞り込めるのか考えるため、工場倉庫の工太先輩にも聞いてみることにしました。

工場倉庫の必要最小限の在庫量って、明日の出荷に必要な1日分と言えますか?

デポに向けて出荷するために必要な量といえば、確かに明日の1日分ではある。
大量出荷の場合は事前にわかっているから、タイミングに合わせて用意すればいい。

でも、工場倉庫にはデポと違う種類の在庫がある。
工場からできあがったものが送り込まれてくるんだよ。
これは生産都合で送り込まれてくるから、倉庫側では管理が難しい。

倉之助くん、在庫には顧客の都合で用意すべきものと、生産の都合で発生するものがあるんだなとアタマを整理しました。

工場には材料等の在庫がありますが、まずは製品の在庫管理に集中します。

生産サイクルなどの制約がなければ、必要最小限の在庫量は「出荷1日分」である。生産拠点から在庫を補充してもらう拠点であれば、極限まで絞り込んだ在庫量は「1日分」である。

倉之助くん、「1日分」というキーワードを得て、考えるのが面白くなってきました。

次号へ続く…

芝田さん著書の「手にとるようにわかる在庫管理入門」がかんき出版より発売されました!
豊富な図解で初学者に最適!なのでぜひ手に取ってみてください。

物流や在庫管理でお悩みの方、まずは気軽にご相談ください!

株式会社湯浅コンサルティング

株式会社湯浅コンサルティングは、「物流」に特化したコンサルティング会社で、物流の改善、見直し、在庫削減、物流ABC導入など、30年以上の実績があります。調査研究の受託、物流管理ソフト開発支援や、物流人材研修の場への講師派遣を行うサービスも行っており、物流に関する著書も多数出版しています。