倉之助くんの在庫管理奮闘記 ~その5~

【執筆者情報】
芝田 稔子(しばた としこ)
物流専門のコンサルティング会社 湯浅コンサルティングのコンサルタント。
物流のムダ、在庫のムダをなくし、企業の収益率を向上させ、地球環境をよくすることを目指し、多くの物流事業者、荷主企業の支援を行う

倉之助くんの在庫管理奮闘記 ~その4~を読む

倉之助くんは、「適正在庫量」を維持することが在庫管理を実現することであると、一瞬、悟りを開いた境地に至り、ではどうやって、その量を維持すればいいのか、研究を重ねています。

ある本に、「在庫は「出」は管理できない」とありました。顧客が、いつ、いくつ、何を注文するか、誰にも読めません。在庫管理は「入り」をコントロールすることが全てだということです。

倉之介くん、色々と実感するものがありました。営業担当だった頃、顧客の注文内容を予想するのはほぼムリでした。なので、社内にはなるべく多くのアイテムを大量に持ってもらうように要求し、顧客がどんな注文をしても対応できるように努めていました。今考えれば、そんな自分の行動こそがムリでした。それでは倉庫もお金もどれだけあっても足りません。

在庫は「出」は管理できない。「出」の状況を見極めて「入」をコントロールすることが在庫管理

4つの発注法

在庫の「入り」をコントロールする発注法は、発注量や発注のタイミングが決まっているどうかの2点により、4種類に区分されています。

4つの発注法

発注量
決まっている 決まっていない
発注の
タイミング
定期 【定期定量発注法】
定期的に同量ずつ発注する。


【定期不定量発注法】
定期的に発注するが、発注量はその時に応じた必要量。
現在、最も多く採用されている発注法。「発注点法」とも呼ばれる。

不定期

【不定期定量発注法】
発注時期は変動するが発注量は一定。
「2ビン法」「三棚法」などがあり、データなしで管理可能。

【不定期不定量発注法】
発注する量・時期ともに出荷状況に合わせて変動させる。

「発注」という言葉が使われていますが、これは手元に在庫を用意するための指示(行動)を代表させた言葉であって、生産関連でいえば「生産指示」とか「生産依頼」と言い替えられますし、「仕入れ」も同様、「発注」に含まれます。

倉之介くん、自分の会社にあてはまる発注法はどれなのか、考えてみました。

在庫管理に苦労している理由は、出荷状況が日々変化するからです。「発注量が決まっていない」右の2パターンのいずれかが採用できると思われます。

次に発注のタイミングをみると、「定期」と「不定期」があります。「定期」とは、週1回とか月1回のように、発注できる時期が定期的に決まっているものです。

工場倉庫での生産依頼を行っている工太先輩は、生産サイクルに対応する必要があるので「定期発注」
仕入れを行っているデポ吉くんは、生産サイクルなどはなく、いつでも発注できるから、「不定期発注」が使えそう。

発注タイミングが限定的なら「定期発注法」

生産サイクルのあるメーカー、発注タイミングが限定的な流通業者などは、この方法を採用することになります。たとえば以下のような生産・発注を行っている場合です。

  • 週単位、旬単位、月単位等の生産サイクルにしたがって生産している
  • 調達は「決まった日付」、「〇曜日」等、タイミングが決まっている
  • 発注はいつでもできるが、それに応じて納品してもらえるタイミングは「〇曜日」等、決まっている

発注時期の制約は必ずしも取引相手の問題ではなく、「発注は○曜日」のように自社都合で決めている場合も同様です。

発注間隔と発注量はイコール

工場倉庫では「定期不定量発注法」が使えると思うんです。

発注時期に制約があるのを踏まえて、発注量を出荷に対応させて変化させられたらいい管理ができそうだね。詳しく教えてよ。 

では、定期不定量発注法について説明してみますね。工太先輩のところでは月単位で生産計画を立てていますね。今は5月中旬なので、6月の生産計画を立てるとします。

7月に必要な在庫を生産するための生産計画だね。

はい! 7月の出荷が終わった時の在庫量がゼロ(必要最小限の安全在庫のみ残る)になるように、「今」から「7月末」までの在庫の入りと出を推測も含めて計算するわけです。今わかっている数字はなんですか?

まず、今の「在庫残」だね。6月末までに生産される量、つまり「入荷量」もわかる。今から7月末までの「出荷量」は推測するしかないね。

はい。推測といっても闇雲なものにならないよう、過去の出荷データを元に根拠を持って推測します。

 ちなみに、リードタイムが3か月であろうと6か月であろうと、週単位で生産計画が行われるのであれば「週次生産」ですし、月単位であれば「月次生産」です。リードタイムがどんなに長くても、月次生産であれば月ごとの発注であり、発注量は一か月分になります。

「不定量」で需要の変化に対応する

 発注する時期が限定されている場合、需要の変動には「発注量」で対応するしかありません。

月次で生産サイクルを回しているのであれば、「リードタイム後の1ヶ月」に必要な量を予測し、発注します。予測よりも出荷が少なかった場合、在庫は多く残ります。持っている在庫量は「在庫残」と呼ばれます。

「在庫残」が多ければ、次の発注は、その分をおりこんで少量でよいことになります。逆に、予測よりも出荷が多かった場合、次にはそれらをおりこんで多めの発注をすることになります。

予測よりも出荷が多かったら欠品すると思われるかもしれませんが、ある程度の出荷の上振れには対応できるよう、「安全在庫」を常に持っておきます。安全在庫については、別の記事で詳しく説明します。

基本の計算式

 定期不定量発注法では、「リードタイム後の1週間」とか「リードタイム後の一か月間」に必要となる在庫量を想定せねばなりません。単なる想定にせず、「来週こそ売上が伸びるはず」といった人間の思惑はなるべく排除していくと、「今と同様の売上が続く」と考えるのがまずは妥当です。決まった季節変動があるならば、それは別におりこむとして別記事で説明します。

 週次の定期不定量発注法は、下記のように考えて計算します。

定期不定量発注法の計算をしてみよう

0週間目 1週間目 2週間目 3週間目
発注 100
入荷 95 100 ?
出荷 100 100 100
発注残 195 100
在庫残 ①100 95 95 100

今は1週目の最初の日で発注量を計算しようとしています。表の中の「?」が書いてある欄です。ここで発注したものは3週目に入荷されます。3週目の「?」のところに同じ数字が入るわけです。

定期不定量発注法では、いつでも「リードタイム後の出荷期間(週次発注なら1週間)が終わった時に安全在庫だけが残っているように」発注します。こうすれば、いつも欠品なく必要最小限の在庫量を維持できます。

まず、現在の在庫残を確認します。①100個となっています。

発注しようとしているその時から、「リードタイム後の出荷期間」すなわち3週目の出荷が終わる時までに、いくつ入荷や出荷があるか計算します。

計算式は以下のようになります。「?」が計算できたら、それが1週目の発注量になります。

在庫残+入荷量合計―出荷量合計+「?」=100(残したい在庫)

少し詳しく計算の中身をみると下記のようになっています。

在庫残+入荷量合計=在庫残100+入庫95+入庫100

出荷量合計=100+100+100(今週の販売状況が続くと考えての推定)

これらを先ほどの式に入れると、「?」は「105」となります。

 このような手順で計算するのが定期不定量発注法です。ここでは「週次」で説明しましたが、週を月に置き換えれば「月次」の定期不定量発注法も同様の考え方で計算することが可能です。

さて、倉之助くんの説明に工太先輩は納得してくれるのでしょうか。

次号へ続く…


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株式会社湯浅コンサルティング

株式会社湯浅コンサルティングは、「物流」に特化したコンサルティング会社で、物流の改善、見直し、在庫削減、物流ABC導入など、30年以上の実績があります。調査研究の受託、物流管理ソフト開発支援や、物流人材研修の場への講師派遣を行うサービスも行っており、物流に関する著書も多数出版しています。