【執筆者情報】
芝田 稔子(しばた としこ)
物流専門のコンサルティング会社 湯浅コンサルティングのコンサルタント。
物流のムダ、在庫のムダをなくし、企業の収益率を向上させ、地球環境をよくすることを目指し、多くの物流事業者、荷主企業の支援を行う。
“自宅の冷蔵庫”で在庫管理を学べ?
この連載は、初めて在庫管理を担当することになった若手社員「倉之助くん」を主人公に、困ったり、迷ったりしながら、在庫管理を学んでいく姿を紹介するものです。
読者の方々には、倉之助くんに共感したり、同情したり(?)しながら、在庫管理について学べるものにしたいと考えています。倉之助くんの奮闘を楽しみながら、応援して頂ければ幸いです。
※「倉之助くん」は、2023年1月16日に出版された「手にとるようにわかる在庫管理入門」に登場するキャラクターです。
前回、倉之助くんは、社内の在庫管理システムを初めてじっくり見てみて、在庫が「いくつあるかわかる」だけでは、過剰なのか不足なのか、全くわからないということに気付きました。在庫量は出荷量と対照して「何日分」に相当するのか、計算してみるのがよいようです! さて、今号では彼はどんなことを学ぶのでしょうか。
冷蔵庫と倉庫の役割は同じ
倉之助くんは在庫管理の本で面白い説明を発見しました。自宅の冷蔵庫を題材に、在庫管理で行うべきことはすべて学べるというのです。
会社の在庫管理がなぜうまくいかないのか考えようとしても、たくさんの関係者がいて、いったい誰の行動がいけないのか、どう整理すればいいのか、悩んでいたのですが、自宅の冷蔵庫ならば関係者は自分と家族のみ。
シンプルに行うべきことを整理できそうです。
倉之助くんは面白い発見をしたと上司に報告したところ、
面白い視点だね!まず冷蔵庫と倉庫はどう同じなのか、説明してみてくれる?
一瞬褒めてくれたものの、瞬間で次の質問が出てきてしまいました。
倉之助くんは冷蔵庫の役割を考えてみました。
まず、「食べ物や飲み物を冷やしておくため」ということがいえるでしょう。
冷蔵庫は「品質を保って保管する」役割を果たしています。
「食べたい時に、いつでも食べられるようにするため」ということもあるでしょう。
「必要なときに、必要なものが手に入れられるように保管する」のも、冷蔵庫の重要な役割です。
倉之助くんはだいたい週末にまとめて買い物をするので、冷蔵庫には「まとめ買いする分のモノが入らないと困る」ことになります。
買い物は1週間に1回と決めている場合、冷蔵庫には1週間分の保管能力が必要だということになります。
まとめて買って、必要なたびに使っていくという使い方は、「調達の時期」と「消費の時期」のズレを、冷蔵庫がバッファとなって吸収しているわけです。
倉庫そのものの活動です。冷蔵庫と倉庫の役割を整理してみると、下の図のようになります。
冷蔵庫 | 倉庫 |
冷やしておく | 品質を保つ |
食べたいものを食べたい時に 食べられるよういつでも置いておく |
必要な時に必要な物が 必要なだけ使えるようにする |
まとめ買いしたものを入れて置く | 調達と消費のタイミングのズレを埋める |
冷蔵庫で在庫管理力をチェック!
倉之助くんは、冷蔵庫で在庫管理能力をはかれるというチェックシートを発見しました。
これは、いま会社の在庫管理を任されているという人でなくてもイメージしやすいと思うので、ぜひやってみてください。
持ち点は20点。ひとつあてはまれば「―1点」です。
ちなみに「在庫管理的によい冷蔵庫」とは、以下の3点が実現されているものです。(倉庫も全く同じです!)
- 中身が必要なものだけに絞り込まれている
- 品質が保たれている
- 必要なときにすぐに取り出せる
0~9点は在庫管理初心者、10~14点は普通の人、15点以上はプロ級
いかがでしょうか。ちなみに倉之助くんは15点でした。
ぎりぎりとはいえプロ級!在庫管理の素質がありそうです!
チェックシートの項目は、まるで本当に家庭の冷蔵庫の話ですが、実は以下のような視点でみると、会社の倉庫と結びついてきます。
在庫管理能力の視点 | 該当する項目 |
財産をムダ遣いしていないか | 1,2 |
在庫実態を把握しているか | 3,4,5,6,7 |
購入(生産or仕入れ)の量と内容をコントロールしているか | 8,9 |
消費(出荷)の量と内容を把握しているか | 10、11 |
整理されているか | 12、13、14 |
整頓されているか | 15、16、17 |
清掃されているか | 18 |
関係者の意思疎通は十分か | 19、20 |
出荷に合わせて入荷する
倉之助くんは、自分の冷蔵庫の使い方を在庫管理の視点から整理してみることにしました。
在庫管理では、「出荷は読めないので(顧客がいつ何を注文するかわからないので)、自分でコントロールできるのは入荷のみ」と教えられます。
冷蔵庫でいえば、中身の減り具合を見ながら、必要なモノを補充することがポイントになります。当然ですが、減っていないものを補充してしまっては過剰在庫になり、品質の劣化や廃棄につながります。
倉之助くんは、先日、仕事帰りに大安売りしているスーパーを通りがかり、ラッキーとばかりにちょっと多めに買い込んだことを思い出しました。
帰宅してみると、冷蔵庫の野菜室は思いのほかいっぱいで、買ってきたものと合わせて詰め直したり苦労したあげくに、結局入りきらずに冷蔵庫の外に置いておく羽目になりました。
補充すべきタイミングと量を間違うと、下記のような問題が起こります。
× 格納に時間がかかる
× 格納場所に入りきらず、作業環境が乱れる
× あるべき場所に保管されていないことで、必要な時に見つからないことがある
× あるべき場所に保管されていないことで、「ない」と判断され、余計な補充を行うことがある
どこに何があるかわかるようにする
冷蔵庫でも大事なことは、パッと見て、すぐに中身の全貌がわかるようになっていることです。
冷蔵庫が大きい場合にありがちなことですが、奥のほうのモノは不良在庫と化していることがあります。気が付いたら、とっくに賞味期限が切れていたというようなことが起こります。
このような事態を防ぐには「死角を作らない」ことが大事です。そのためには収納の工夫等も必要なわけですが、常に気を付けるべきことは「2S」。整理、整頓です。
整理とは、不要なものは区別し、必要なものだけにすること。
整頓とは、使いやすいように置き、誰でもわかるようにすること。
また、冷蔵庫の中身は「トマト」や「キャベツ」などのように、見るだけで何だかわかるモノばかりではありません。
倉之助くんは実は料理男子なのですが、まとめて作った冷凍した場合など、きちんと記録しておかないと、作った本人でも何だかわからなくなってしまうことがあります。まして本人以外が見たら、まったく何だかわかりません。そういったことが起こらないよう、きちんとメニューや作った日を記録しておく必要があります。
整理整頓されていないことにより、下記のような問題が起こります。
× 必要なものが見つからない。探すのに時間がかかる
× 見つからないので、買う必要がないものを買ってしまう
× 見つからないまま賞味期限が切れて廃棄してしまう
× 内容の明示がないため不安になり、結局使えず廃棄してしまう
時間もお金も損をすることになります。
倉之助くん、だんだん在庫管理でやるべきことが整理されてきました。
次号へ続く…
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豊富な図解で初学者に最適!なのでぜひ手に取ってみてください。
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株式会社湯浅コンサルティングは、「物流」に特化したコンサルティング会社で、物流の改善、見直し、在庫削減、物流ABC導入など、30年以上の実績があります。調査研究の受託、物流管理ソフト開発支援や、物流人材研修の場への講師派遣を行うサービスも行っており、物流に関する著書も多数出版しています。